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7月

2010

2010. 7. 1抗がん剤ドラッグラグを企業の視点でみる(2)

不確実性のなかでの判断

マーケティングインサイツの尾上です。

前回は、ドラッグラグの原因としてこれまであまり取り上げられることのなかった企業の能力不足という要因を議論しました。

誤解があるといけないので補足しますが、これは、たまたまその新薬候補を持ってしまった企業が、がん領域において経験や知識の不足があるだろうという意味で使っているので、企業全体の能力をうんぬんしている訳ではありません。

例えて言えば、(もちろん架空の話として)SONYや日産という企業が、新製品の研究プロセスでたまたま、腹腔内視鏡手術に応用できるすごい技術のタネを見つけたとしましょう。
その場合、この技術がどの位市場で「売れる」ものなのかを判断することは当該企業には手にあまる話なのは当然のことです。

また、自社で製品化することで、医療に大きな貢献ができ、売り上げも見込めると仮に予測できたとしても、医療機器を販売するノウハウもルートもこれから開拓しなくてはなりません。

という事で、SONYにとっても日産にとっても、そうした新技術のタネを持ってしまったことが「不幸」であるという構図になります。
これを企業の「能力不足」と呼んだ訳です。


どの製薬企業も自分の治療フランチャイズ領域に関しては、時間をかけて投資をしてきています。
したがって、ひとたび強いフランチャイズ治療領域ができてそれなりの営業部隊を投入・整備してしまえば、その領域の顧客にフィットするような、次の新規薬剤はインライセンスしてでも欲しいものになる一方、それ以外の領域の薬剤の場合には、判断が極めて慎重になるのはやむをえないのかも知れません。

ですが、企業としてのフランチャイズすなわち戦うべき主戦場について、過去の積み上げにこだわるばかりに、本当に社会が求めている領域に出遅れることもありえます。

このような製薬企業の陥りやすい判断ミスを、イノベーションの権威であるハーバードのクレイトン・クリステンセン教授は最近の著書The Innovator’s Prescriptionのなかで、「誤った分野での戦い勝つことほど愚かしいことはない」と表現して警告を発しています。

今利益を得ている(パックのある)分野に向かってスケートを滑らせるのではなく、これから伸びる(パックが出て行く)分野に向かって滑らない危険性を指摘している訳です。


フランチャイズでもない分野の薬剤が、新薬のタネとしてある日出てくることはありえる話です。
その場合でも企業としてはオリジネーターであることは事実ですので、社会のため、医療のためにはそのタネを封印することはできないというジレンマがあります。


さて、企業の能力不足以外の要因として、今日はもうひとつの因子「極度の不確実性」について考えることにしましょう。

もともと、新薬開発は不確実なものですが、ドラッグラグの原因の一つとして企業が開発への決断を躊躇し先送りする大きな理由は、開発戦略そのものに関する不確実と、承認可能性に関する見通し・判断が極度に付きにくいことであろうと考えます。

開発戦略は、基本的には製品固有に決められるべきものです。
例外としては類似製品が既に承認になっていたり開発途上にあれば、その開発戦略を踏襲することができます。

しかし、抗がん剤の場合には新しいメカニズムの薬剤が増えています。
また標準治療と考えられるものが変化し、数年前までの薬剤とでは、性格も系統も異なるために開発戦略を全く新たに検討しなければならないものも多くあります。

時には別な抗がん剤との併用が必要であったり、治療の位置づけ(2次治療、3次治療など)を踏まえながら、どのような患者さんを対象に、どのような試験デザインで臨床試験(治験)を行うことが、当該薬剤の安全性と効果を示すことになるのかについて頭を悩ますことが多いというのが実状でしょう。

近年では、バイオマーカーを使った対象患者の絞りこみや、サロゲートマーカーと呼ばれる代替指標を用いて効果などを近似評価することの試みが真剣に検討・議論されてきています。
ですから企業には一層複雑かつクリエイティブな開発戦略立案が求められると言えるでしょう。

こうした環境下では、PMDAへの相談の機会を利用する企業も多いと思われます。しかし治験相談を終えて「もやもやが晴れました」と言ってすっきりした顔つきになった企業担当者や治験の関係医師に会ったことは寡聞にしてありません。

何とか治験を効率的に行い、(出せるものなら)早くクスリとして世に出したいと願う企業や治験の関係医師と、それを審査する規制当局側PMDAとのスタンスの違いが根底にあることを強く感じます。

PMDAの近藤理事長の掲げるレギュラトリー・サイエンスは、新薬に関するリスクをどんな風に評価し、担保しながら承認するのかを論理構築するものでしょう。
こうした努力によって、いたずらに海外(FDAやEMEA)に追随する判断から脱却することも、今後の重要な課題です。


このように、製品の開発戦略がはっきりしない、あるいは非合理に大規模な治験実施を当局から示唆されてしまうと、企業は開発に割ける人員とコストをもとに判断しますので、当該新薬候補の優先順位を下げざるを得ないことがあります。

このように不確実ななかで開発戦略についての結論を出し、駒を先にすすめて行くのは障害が多いことは判っていただけると思います。

さて、「開発戦略の決定」が臨床試験開始の入り口であるとすると、試験終了後の最終の関門が承認です。

これに関しても不確実性が企業の開発決断を躊躇させる因子になります。
企業は承認をもらうことを前提として治験を行うわけですが、様々な不確実性要因でそれがかなわないことを経験上知っています。

そこで「承認可能性」についても色々な判断を行う訳です。
こうした判断に関係する部署としては、製品戦略部門であったり、薬事部門であったり、臨床開発のプロジェクト管理部門だったりしますが、時には承認される確率を%で出すことが求められます。
承認確率以外に、承認時期も同時に予測しなければなりません。

承認されない最も明白な理由は、有効性が示されないか、安全性上の問題がある場合でしょう。
これは一見納得のゆくものが多いように思われます。しかし、安全性の問題でも海外で発現した間質性肺炎による死亡例などは、その評価を早いタイミングで行うのは至難の技です。

基本は、疑わしきは承認せず、という姿勢ですので、どんなに有望なクスリでも最後にうまくゆかない事はつねにリスクとして織り込んでいなければなりません。

審査期間も短縮される傾向はありますが、PMDAのスタッフが増員されることがそのまま単純に、審査機関短縮に向かうとは言えないかもしれません。

もともと日本の治験は海外に比べると過剰品質という面があることが指摘されています。
審査スタッフが増員されることが、期間の短縮にまっすぐに向かわず、(必ずしも本質的でない可能性の高い)詳細な照会事項と言う名の質問を増やす可能性もゼロではありません。


治験開始時に考えた想定(アサンプション)を越えた審査基準によって判定されることも含めると、社会的、科学的な面から不確実性を助長する因子は今後も恐らく減ることはありません。

こうした中で、企業に治験開始という決断を持たせるものは何でしょうか。

私見では、それはクールな計算とクスリを世に出したいという熱い思いのブレンドだろうと思います。

クールなアタマと熱いハートを持って初めて、開発治験開始へと腕が動くのでしょう。
Head & Heart & Handという語呂合わせのような3Hが企業内にそろわないと、ドラッグラグは容易に解消できないのです。

ここまで、ドラッグラグを企業の視点で見るというテーマで書いてきました。

企業が新薬候補を正しく評価し、販売までのインフラを持てるかどうかという能力部分の要素。
これは、もしがんの領域で能力不足が考えられるのであれば、速やかにパートナー、アライアンスの企業を探す方向に進むことで解消をすることが大事になります。

また、開発戦略の決定や、承認可能性に関わる極度の不確実性を少しでも減らすためには、治験参加医師、規制当局、製薬企業の3者が建設的な交流を図る場を増やして、抗がん剤開発に関する視界を良くすることが求められます。

他企業の事例なども公開して「臨床の知」「レギュラトリーサイエンスの知」が蓄積されて行くことは重要ですね。

5月31日のブログで紹介した、製薬医学会もそうした動きにインパクトを果たせるのではないかと期待をしています。

こうした努力は、最終的に医療消費者である患者さんに、いかに安全で有効な治療手段を届けるか、というミッションに関わることです。2人に1人が、がんに罹患する時代だからこそ、ドラッグラグに必要な対策を総合的に打つことが求められます。

なお、ドラッグラグをここでは、承認されていないクスリ、または適応症の問題として議論してきました。

しかし、既に検討会などでも一部議論されている通り、日本に於いても保険診療で使えるようになることで、(承認されなくとも)ドラッグラグは解消するという側面があります。

ですから、少なくとも適応症追加に関して言えば、どうしても必要な適応疾患(がん種)に関しては、ある条件のもとで効能の追加承認と保険適用を別扱いにする施策が取れれば、承認のためだけに余分な治験をする必要がなくなることが言われています。

意味の少ない、日本人の少数例の治験を、適応追加という理由だけで行うことに意義があるのかどうかも、これから広く議論されなければならないでしょう。

今や、新薬が世界標準の治療になるまでの期間が短くなりつつあります。

PMDAが人員を増やす、
新薬に関して薬価の逓減をなくして企業の開発意欲を増やす、
治験実施のインフラを拡充させる

といった、要素還元論的な対症療法の連続では、日本が取り残されつつある状況に有効に立ち向かえない可能性が高いことをもう一度考えなくてはなりません。

これはやがてがんになるかもしれない皆の問題なのですから。

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30

6月

2010

2010. 6. 30 抗がん剤ドラッグラグを企業の視点でみる(1)

原因の一端は企業の能力不足

マーケティングインサイツの尾上です。

今もメディアをにぎわしている「新薬創出加算」ですが

この制度が導入されたきっかけでもある抗がん剤ドラッグラグのことは
このブログで半年前にも書きました。

今回は、あらためて申請企業がどのような視点で、抗がん剤ドラッグラグをみているのかについて、私見をのべてみたいと思います。

ラグの原因としては、前回も書きましたように時系列的に言って

1)製薬企業がそもそも、当該薬剤の日本での開発に着手するのが、海外よりも遅い
【企業の責任】

2)次に、企業が開発を決断しても、実際に治験実施するうえでこれを受託する医療機関の体制(インフラ)が未だ十分でなく、海外に比べて開発自体に時間(と費用)がかかる
【医療機関側の責任】

3)最後に、治験が終了して厚生当局に企業が申請してもその審査に時間がかかってしまい承認が遅れる
【厚生労働省,PMDAの責任】

の3種類の「事情」が複合的にあいまって起きていることが言われています。

上記の3つの要因は、最終の「遅れ」に対してそれにれ一定の責任を持っているわけですが、相互依存的なことも多いので、時系列で、各要素の問題を詰めて行けば解決する類の「要素還元論」では立ち行かないことを前回指摘致しました。

企業の責任を問う1項については
「日本の市場では、薬価が経年的に下がってしまい儲からないので、企業の開発意欲が湧かないのだ」ということが言われてきました。

もちろん、そのようなことが理由になる場合もあるでしょうが、私のみるところではそれほどシンプルな経済合理性が理由ではないと考えています。

では、どういった事が原因なのでしょうか。

「企業の能力不足」と「極度の不確実性」の2つの要因が大きいのではないかと思っています。

企業の能力不足としては主に2つあります。

まず、製品の市場性(製品が発売されてから、将来どれくらいの患者さんに使われて、その結果どの程度の売り上げを見込めるのか)を評価することがうまくできない。
つまり市場性を過少に評価してしまい、その結果、採算が合わないという結論になってしまうことがあります。
製品と市場に対する目利きの能力不足と言えるでしょう。

実際にまだ第一相試験も終わっていないパイプラインの開発候補製品について、評価をするのは難しいことではありますが、適応予想疾患の現状の位置づけ、アンメットメディカルニーズを把握して、当該薬剤のポテンシャルを過大にならず評価することは、経験のあるマーケターが臨床家やサイエンティスト達と議論しながら、その振れ幅を縮めて行くエキサイティングな作業です。

この領域に関しては、経験がものを言う事は事実ですので、特にガンの領域に新規で参入する企業は、この市場性の見積を妥当に行って確信をもてるだけの目利きを社内に持っていないことも考えられます。
そうなると一挙に採算が前面に出て来て、開発に着手できない状態が生じるのではないでしょうか。

もちろん、採算の観点から言えば、臨床開発に要する費用もインパクトを与えますので、どのような開発戦略で行くのかに関して、見通しを持てないような特殊な領域では、採算ラインはどうしても高くなりがちです。

臨床開発に要する時間と費用を決める因子は、施設のインフラも関係しますし、PMDAの開発治験に関する指針や審査基準なども大いに関係してきます。したがって、ここでも最初に挙げた3つの要因が複合的に絡んでくることが理解できるでしょう。

企業の能力の2つ目は、製品にしたあと商業化するプロセス、すなわち販売に関する能力の不足が挙げられるでしょう。

たとえば、有望な抗がん剤を見つけた企業が、自社ではがんの領域での販売経験を全く持たず、循環器を中心としたセールス/プロモーション体制しか有していなかった場合には、がん領域の販売体制を作り上げなければならず、これはどこの企業にとっても簡単な話ではありません。

がんの薬物療法が臨床腫瘍医(メディカルオンコロジスト)に集中していれば、企業側も対処法として手段が見えて来るでしょうが、日本では臓器別に外科も含めた多様な医師ががんの薬物治療に当たっているのが現状なので、そういった市場や医療供給体制を前提に、営業を始めとした発売後のインフラを整えて行かなくてはならないのです。

もちろん、全ての企業が自社だけで製品を販売する理由は無いわけですから、自社の販売体制に不得手があれば、他のメーカーと組んでプロモーションにあたる手段もあります。
ですが、まだ薬剤が開発前にある場合では、そのようなパートナー探しも慎重にならざるを得す、結果として多様な選択肢を踏まえた採算性の検討はできにくいのが実情でしょう。

このように、企業の能力不足は、基本的にがんの領域に関しての経験不足がおもな原因となって、製品の市場性を適切に評価できなかったり、発売後の企業の体制整備のことに力不足を見出して、開発着手が遅れる可能性が大きいと言えます。

実際、がん領域ですでに何らかの主要ビジネスを持っている企業であれば、その開発候補製品自体が単体では赤字でになりそうであっても、がん領域における品揃えとしての効果を期待して、開発にGoサインを出す可能性もあるでしょう。

さらに、薬剤の重要性、ニーズが高い薬剤の場合には、ガン領域でのオピニオン医師たちから企業への開発プレッシャーも、企業側は真正面から受け止めることが多くなると予測されますので、「採算が合わないから開発できない」と言って逃げる確率は減るかも知れません。

このように、企業の能力(や経験)はドラッグラグに関係している大事な因子ですが、あまり正面切って取り上げられたことがなかったのも事実です。

さて、もうひとつの原因としては「極度の不確実性」があります。
これは、開発方針に関する不確実と承認に関する不確実がありますが、
また長くありましたので明日に稿を改めることにしましょう。

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31

5月

2010

2010. 5. 31. 製薬企業に「就職」した医師たち

日本製薬医学会年次大会に参加して

2週間ほど前になりますが、第一回日本製薬医学会年次大会に参加して来ました。
(5/14- 5/15 @東京大学山上会館)http://japhmed.jp/activity/medical.html

「製薬医学」という言葉は初めて聞くかたも多いと思います。

英語ではPharmaceutical Medicineですが、概念としては臨床試験の質の向上を主な目的として

クスリの前臨床試験から臨床開発をカバーする各種の規制や原理、オペレーションの実際、臨床薬理、薬動力学、薬事・規制科学(医薬品行政)、倫理、PMS、生物統計、医療経済、ヘルス・マーケティング論などを網羅する幅広い学際的な新しい医学の一分野であると理解しています。

日本では上記の学会が昨年一般社団法人として発足していますが、もともとは製薬企業に「転職」した医師たちの古くからあった自主的な集まり(関東と関西)が母体になって発展してきたようです。

ホームページなどから見ますと、学会の活動は

①製薬医学に関する社会的な認知の拡大と関連する医師への教育の実施

②PMSにおける安全管理(リスクマネジメント)の確保:【PMS部会】

③医師が行う自主研究や市販後臨床試験の実施に関し、コンプライアンスをふまえた企業と研究者・オピニオン医師との科学的な交流の活性化

を狙っているものと思います。

昨年度データで会員医師は240名ですが、うち16%が内資系製薬企業、65%が外資系製薬企業に所属しています。つまりメンバーの約8割は企業内の医師です。それ以外は、研究機関や、CRO、行政機関などに所属しています。

ここでは8割を占めている企業所属の医師について、当学会での発表や、前職で経験したことをもとに筆者の知るところをご紹介します。

まだ、日本ではマイノリティー集団である企業所属医師ですが、企業内での活躍部署で恐らく一番多いのは臨床開発の部門でしょう。
実際、開発部門に所属する医師たちの共通のモチベーションのひとつになっていると思われる象徴的なセリフがあります。
それは「臨床医として、眼の前の患者さんの病気の治療に全力であたることで一人ずつを救うという道以外に、良い薬剤を(企業で)開発してそれを多くの患者さんに届けることで、結果的として多数の患者さんを救うことに貢献できたら」という発言です。

実際にクスリの開発成功確率の低さや開発期間の長さを考えると、このような「真の貢献」の現場に立ち会えるチャンスは企業内の医師と言えどもそんなに多くはないかもしれませんが、臨床現場で感じたはがゆさや、患者さんへの思いを、医師としての観点で実現しようとする姿勢は是非応援したいですし、その力が発揮できるのでは、と思います。

臨床開発以外では、市販後調査や安全管理の部門の所属も多いようですが、医学的判断を重視する意味ではやはり適任のように思います。
それ以外の部署では、外資ではメディカルアフェアーズのような名称、内資では学術本部的な名称の部門で部門ヘッドになるケースが結構あります。この部署では、販促資材の科学的レビューや、自主研究、市販後臨床試験の企画などに関係した活動が行われています。


こうしてみますと、その役割や活躍分野は製薬企業のバリューチェーンの上流から下流(PMS、ライフサイクルマネジメント)まで広いことが分かります。

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12

5月

2010

2010.5.13 医薬品の製剤・包装にも光を

マーケティングの守備範囲

クスリにおいて重視されるポイントとは一体何でしょう、と訊かれると、多分こたえの多くは効果(薬効)と副作用の2つであると返ってくるでしょう。
この2つに加えて用法(注射か内服か、注射でも自己注射できるのか、一日一回か等々)を含めると、これらはみんな治療に直接関わることですので、関心がそこに行くのは当然の話です。
アンメットメディカルニーズ(
unmet medical needs:満たされていない医療ニーズ)として、通常取り上げられるのは、現在の治療薬剤では達成できていない、または達成度が低い「改善領域」のことになりますが、ここに「薬効、副作用、用法」などが挙げられるのはそれが目立ってかつ重要だとみなされるからでしょう。

一方で、製剤(どんな剤形にするか)や包装については、アンメットメディカルニーズの範疇で語られることはほとんどありません。それはなぜでしょうか?

ここでは、嶋口充輝教授の提唱している製品・サービスにおける「満足のピラミッド」を使って、説明してみます。(嶋口充輝「顧客満足型マーケティングの構図」有斐閣1994年)


製剤や包装などはそれら自体の重要性が低いと言うのでなく、それが医薬品の「本質機能」ではなく「表層機能」とみなされる、という考え方が説明として妥当なのではないでしょうか。

 

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15

4月

2010

2010. 4. 15 がん医療の変化

サバイバーの視点に学ぶ

サバイバーでないと見えないものがある。これは3月に開催されたある会でゲストとして登壇した作家の岸本葉子氏の発言を聞いて抱いた感想です。

岸本氏は、ここ10年程の医療現場の変化のポイントをとても落ち着いた語り口で、的確に指摘していたように思います。それは、ご自身が虫垂ガンを告知された頃とは異なって、今ではがん医療の現場でも告知や治療方法に関するインフォームドコンセント(IC)は極めて当たりまえになっていますが、そのような変化が顕著に現れたのが1990年代の終わりごろからではないかと言います。だれもが当然と受け止めている、この「変化」ですが、患者や家族にとっては、それをどう受け止めるかは、時に大変な重荷であることは間違いありません。また医療者の側にもそれらの変化は大きな負担を強いたはずです。

実際、医慮現場は、ある意味、時代の流れとして当然に、このような告知やICを(恐らく)ほぼすべての患者と家族にするようになったにもかかわらず、それを実行する為の特別な訓練や、余分なリソース(人手)をどこかから得たわけではなく、自前の現行の資源から「ねん出」しなくてはなりませんでした。
見る人から言わせれば、そんなこと医療現場がやって当然、と思われるようなことであっても、変化は変化ですから、そこにヒトが関わって変化を可能にするには、実際に摩擦も起きうるでしょうし、調整は欠かせません。つまり、告知される患者さんへの配慮がいっそう必要になるという変化や、多くのことを情報開示する負担感が医療側にあることを充分に考慮しないまま、変化が先んじたという事です。

医療の現場が、(崩壊かどうかは別にしても)しだいにきつくなって来る一つの要因が、そうした患者さんの側の権利意識の向上や、社会からの要請があるのではないか、という趣旨のことを岸本氏は指摘されていました。

医療はステークホルダーの多い、複雑なしかけのサービス業だと思います。ですから、単純に「○○すべき」とか「△△は合わないので、今日から廃止」という決定がしにくい代表格の分野です。
臨床研修制度も、その典型的な現れ方をしたと理解していますが、仮に長期的に見て正しいことも、それを英断する際に、付随して起こる(恐らくは短期的な)デメリットの解消方法をセットにして持ち込まないと、定着する前に、別のステークホルダーによって、仕掛けや決定自体が「爆破」されてしまうことを、よくよく考えるべきだと思います。

これは、何も評論家的な態度で臨む、というのではなく、ネガティブな部分に対して、隠さず、堂々と対処法を議論することからスタートするという意味です。ネガティブな事を言う奴は許さない、正しい方向性が既に出ているときに、なんでそんな細かなことを言うのか?という風潮自体をなくするだけで、相当良い方向に進めます。

実際には、デメリットの解消方法は存在しない場合もあるでしょう。それでも、最悪の場合でもそのようなデメリットがあることを「議論として封印しないで」理解したうえで最後に英断したのであれば、現場のヒトには、変化に対応しようとする想像力も知恵もついているはずで、「こんなはずじゃなかった」とか「やっぱり、恐れていた通りになったじゃないか」という被害者的な視点がずっと減って来るのだろうと思います。

ここで再度、重要なのは「多様な視点」です。岸本氏がこの10年ほどの医療現場に感じとった「変化」は、恐らく、私がここで言葉にしたものよりも深くて、もっと本質的なことを含んでいるように思います。それを感じ取れた一つの要因は、彼女がサバイバーであることと無関係ではないと思います。インサイトは、対象に切り込む角度によって見えたり見えなかったり、または対象との距離や関わりによって得られたり、そうでなかったりする性質のものだろうと考えます。

自分がマルチタスクを出来る訳はなく、また限られた視点と経験で生きていることを踏まえるなら、他者の多様な視点をもう少し取り入れ、そこから学びたいものです。

ふたたび、医療の現場の話にもどせば、皆がAというボタンを押すべきだという議論の時には、きちんと反対意見にも耳を傾けて、その声がどこから出て来て、どこを問題にしているのかを全員が一度は考える。そして、Aでもnon-AでもないB案を生み出せるかどうか。うまいB案が生み出せすやはりA案で行くしかない場合は、そのデメリットを解消する方法があるのか、解消方法はどこまで有効か? さらに、A案のデメリットの受容限度はどこまでと考えるのか?それは計測可能か?Aのメリットと比較して、もしデメリットの方が不幸にも受容限度のレベルを超えたときには、だれがどう「A案の見直し」を動議提出できるのか?その権利はだれがもっているか?

こんなある意味基本的なことを、本気で議論した末にA案にゆくのであれば、A案の実行推進者も緊張感をもってコトに臨むはずですし、デメリットを解消させるさまざまな取り組みも同時に走らせるという行為のなかで、一度は皆で議論したはずのことが、現実にはどう動くのかを、関係者がみな、傍観者でなく主体者となって「学習」する場ができるのではないでしょうか?

詰め切れないうちに見込み発車して、あとは責任の押し付け合い。誰も監視しないし、当事者にも緊張感が無い、という事例は、地方空港の建設を始め、例にこと欠きません。

それをこの国の不幸と嘆くつもりはありませんが、せめて、がん医療は、多様なステークホルダーが異なる視点をきちんと言葉に出して、それをもとに議論を開示しながら、誤らない方向に進みたいものです。
そんなことを考えさせてくれた岸本氏に感謝です。

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2010. 5. 31. 製薬企業に「就職」した医師たち

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2010. 3. 23 マーケティング担当者の英語学習tips

外資でのサバイバル英語:動詞の重要性

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2010.2.24 失敗事例から学ぶことは成功事例の共有以上に難しい(1)

営業/マーケティングにおける失敗事例発表から

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2010. 1. 31 トレーニングの受益者は誰か?

一方通行の講義を多用する社会

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2009. 12. 7 医薬品マーケティングへのヒント

「砂漠で遭難した人しかわからないのどの渇き」を生身の患者さんから学ぶ教科書

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2009.11.14 医薬品マーケティングへの誤解

マーケティングのtriple winを求めて

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2009.11.10 プロダクトマネージャーの苦悩

医療用医薬品マーケティングの現場で

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2009.11.8 書店にて

カスタマーインサイツをどうとらえるか

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医療リテラシーとメディアの役割

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2009.10.22 デ・マーケティング

首都圏のJR駅禁煙拡大

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2009.10.16 パフォーマンスへの視点(2)

ヒューマンパフォーマンスインプルーブメント(HPI)の観点から

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2009.10.13 マイケルポーター×医療

「医療戦略の本質」を読む

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インサイトにせまる方法

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自分のこころと自分の身体

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顧客の視点に立って考える

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ホリスティック・マーケティング

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マーケターのフラストレーション :インターナルマーケティングを考える

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坂本光司氏の講演を聞いて

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「思考の整理学」筑摩書房 から見えるもの

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