水
30
6月
2010
マーケティングインサイツの尾上です。
今もメディアをにぎわしている「新薬創出加算」ですが
この制度が導入されたきっかけでもある抗がん剤ドラッグラグのことは
このブログで半年前にも書きました。
今回は、あらためて申請企業がどのような視点で、抗がん剤ドラッグラグをみているのかについて、私見をのべてみたいと思います。
ラグの原因としては、前回も書きましたように時系列的に言って
1)製薬企業がそもそも、当該薬剤の日本での開発に着手するのが、海外よりも遅い
【企業の責任】
2)次に、企業が開発を決断しても、実際に治験実施するうえでこれを受託する医療機関の体制(インフラ)が未だ十分でなく、海外に比べて開発自体に時間(と費用)がかかる
【医療機関側の責任】
3)最後に、治験が終了して厚生当局に企業が申請してもその審査に時間がかかってしまい承認が遅れる
【厚生労働省,PMDAの責任】
の3種類の「事情」が複合的にあいまって起きていることが言われています。
上記の3つの要因は、最終の「遅れ」に対してそれにれ一定の責任を持っているわけですが、相互依存的なことも多いので、時系列で、各要素の問題を詰めて行けば解決する類の「要素還元論」では立ち行かないことを前回指摘致しました。
企業の責任を問う1項については
「日本の市場では、薬価が経年的に下がってしまい儲からないので、企業の開発意欲が湧かないのだ」ということが言われてきました。
もちろん、そのようなことが理由になる場合もあるでしょうが、私のみるところではそれほどシンプルな経済合理性が理由ではないと考えています。
では、どういった事が原因なのでしょうか。
「企業の能力不足」と「極度の不確実性」の2つの要因が大きいのではないかと思っています。
企業の能力不足としては主に2つあります。
まず、製品の市場性(製品が発売されてから、将来どれくらいの患者さんに使われて、その結果どの程度の売り上げを見込めるのか)を評価することがうまくできない。
つまり市場性を過少に評価してしまい、その結果、採算が合わないという結論になってしまうことがあります。
製品と市場に対する目利きの能力不足と言えるでしょう。
実際にまだ第一相試験も終わっていないパイプラインの開発候補製品について、評価をするのは難しいことではありますが、適応予想疾患の現状の位置づけ、アンメットメディカルニーズを把握して、当該薬剤のポテンシャルを過大にならず評価することは、経験のあるマーケターが臨床家やサイエンティスト達と議論しながら、その振れ幅を縮めて行くエキサイティングな作業です。
この領域に関しては、経験がものを言う事は事実ですので、特にガンの領域に新規で参入する企業は、この市場性の見積を妥当に行って確信をもてるだけの目利きを社内に持っていないことも考えられます。
そうなると一挙に採算が前面に出て来て、開発に着手できない状態が生じるのではないでしょうか。
もちろん、採算の観点から言えば、臨床開発に要する費用もインパクトを与えますので、どのような開発戦略で行くのかに関して、見通しを持てないような特殊な領域では、採算ラインはどうしても高くなりがちです。
臨床開発に要する時間と費用を決める因子は、施設のインフラも関係しますし、PMDAの開発治験に関する指針や審査基準なども大いに関係してきます。したがって、ここでも最初に挙げた3つの要因が複合的に絡んでくることが理解できるでしょう。
企業の能力の2つ目は、製品にしたあと商業化するプロセス、すなわち販売に関する能力の不足が挙げられるでしょう。
たとえば、有望な抗がん剤を見つけた企業が、自社ではがんの領域での販売経験を全く持たず、循環器を中心としたセールス/プロモーション体制しか有していなかった場合には、がん領域の販売体制を作り上げなければならず、これはどこの企業にとっても簡単な話ではありません。
がんの薬物療法が臨床腫瘍医(メディカルオンコロジスト)に集中していれば、企業側も対処法として手段が見えて来るでしょうが、日本では臓器別に外科も含めた多様な医師ががんの薬物治療に当たっているのが現状なので、そういった市場や医療供給体制を前提に、営業を始めとした発売後のインフラを整えて行かなくてはならないのです。
もちろん、全ての企業が自社だけで製品を販売する理由は無いわけですから、自社の販売体制に不得手があれば、他のメーカーと組んでプロモーションにあたる手段もあります。
ですが、まだ薬剤が開発前にある場合では、そのようなパートナー探しも慎重にならざるを得す、結果として多様な選択肢を踏まえた採算性の検討はできにくいのが実情でしょう。
このように、企業の能力不足は、基本的にがんの領域に関しての経験不足がおもな原因となって、製品の市場性を適切に評価できなかったり、発売後の企業の体制整備のことに力不足を見出して、開発着手が遅れる可能性が大きいと言えます。
実際、がん領域ですでに何らかの主要ビジネスを持っている企業であれば、その開発候補製品自体が単体では赤字でになりそうであっても、がん領域における品揃えとしての効果を期待して、開発にGoサインを出す可能性もあるでしょう。
さらに、薬剤の重要性、ニーズが高い薬剤の場合には、ガン領域でのオピニオン医師たちから企業への開発プレッシャーも、企業側は真正面から受け止めることが多くなると予測されますので、「採算が合わないから開発できない」と言って逃げる確率は減るかも知れません。
このように、企業の能力(や経験)はドラッグラグに関係している大事な因子ですが、あまり正面切って取り上げられたことがなかったのも事実です。
さて、もうひとつの原因としては「極度の不確実性」があります。
これは、開発方針に関する不確実と承認に関する不確実がありますが、
また長くありましたので明日に稿を改めることにしましょう。