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5月

2010

2010. 5. 31. 製薬企業に「就職」した医師たち

日本製薬医学会年次大会に参加して

2週間ほど前になりますが、第一回日本製薬医学会年次大会に参加して来ました。
(5/14- 5/15 @東京大学山上会館)http://japhmed.jp/activity/medical.html

「製薬医学」という言葉は初めて聞くかたも多いと思います。

英語ではPharmaceutical Medicineですが、概念としては臨床試験の質の向上を主な目的として

クスリの前臨床試験から臨床開発をカバーする各種の規制や原理、オペレーションの実際、臨床薬理、薬動力学、薬事・規制科学(医薬品行政)、倫理、PMS、生物統計、医療経済、ヘルス・マーケティング論などを網羅する幅広い学際的な新しい医学の一分野であると理解しています。

日本では上記の学会が昨年一般社団法人として発足していますが、もともとは製薬企業に「転職」した医師たちの古くからあった自主的な集まり(関東と関西)が母体になって発展してきたようです。

ホームページなどから見ますと、学会の活動は

①製薬医学に関する社会的な認知の拡大と関連する医師への教育の実施

②PMSにおける安全管理(リスクマネジメント)の確保:【PMS部会】

③医師が行う自主研究や市販後臨床試験の実施に関し、コンプライアンスをふまえた企業と研究者・オピニオン医師との科学的な交流の活性化

を狙っているものと思います。

昨年度データで会員医師は240名ですが、うち16%が内資系製薬企業、65%が外資系製薬企業に所属しています。つまりメンバーの約8割は企業内の医師です。それ以外は、研究機関や、CRO、行政機関などに所属しています。

ここでは8割を占めている企業所属の医師について、当学会での発表や、前職で経験したことをもとに筆者の知るところをご紹介します。

まだ、日本ではマイノリティー集団である企業所属医師ですが、企業内での活躍部署で恐らく一番多いのは臨床開発の部門でしょう。
実際、開発部門に所属する医師たちの共通のモチベーションのひとつになっていると思われる象徴的なセリフがあります。
それは「臨床医として、眼の前の患者さんの病気の治療に全力であたることで一人ずつを救うという道以外に、良い薬剤を(企業で)開発してそれを多くの患者さんに届けることで、結果的として多数の患者さんを救うことに貢献できたら」という発言です。

実際にクスリの開発成功確率の低さや開発期間の長さを考えると、このような「真の貢献」の現場に立ち会えるチャンスは企業内の医師と言えどもそんなに多くはないかもしれませんが、臨床現場で感じたはがゆさや、患者さんへの思いを、医師としての観点で実現しようとする姿勢は是非応援したいですし、その力が発揮できるのでは、と思います。

臨床開発以外では、市販後調査や安全管理の部門の所属も多いようですが、医学的判断を重視する意味ではやはり適任のように思います。
それ以外の部署では、外資ではメディカルアフェアーズのような名称、内資では学術本部的な名称の部門で部門ヘッドになるケースが結構あります。この部署では、販促資材の科学的レビューや、自主研究、市販後臨床試験の企画などに関係した活動が行われています。


こうしてみますと、その役割や活躍分野は製薬企業のバリューチェーンの上流から下流(PMS、ライフサイクルマネジメント)まで広いことが分かります。

製薬価値連鎖

ただ、実際にどのような具体的活動をしているのかは、所属企業によってまちまちです。

恐らく一番もどかしいのはアドバイザー的なポジションにとどまっている場合でしょう。
つまり、企業内の医師が自身で何かを決めたり、回りを巻き込んで推進したりするリーダーシップが発揮できずに、「お医者様」としてのお知恵拝借のご意見番として利用されるにとどまるケースです。

もちろん、実際にどのような能力・経験のあるかたが当該のポジションについているかにもよりますが、企業の側の意識が基本スタンスを決めていると言っても過言ではありません。

アドバイザーとしての機能であれば、社外の医師でも(完全な代替は無理でしょうが)そうした依頼をする事は可能です。やはり企業は、何故わざわざ社員として医師を社内に雇用しているのかを考えて、そのスタンスを決めないといけないでしょう。

このあたりは、今後徐々に意識が変わってゆくだろうと期待しています。

マーケティングとの関連で、企業内医師に関して2つの事をここでは指摘したいと思います。

まず何といっても、臨床経験のある医師であるということは、「患者を診る」ことに於いて、社外の医療者と同じ土俵に立っている訳です。いわば医者どうしで同郷ということです。医療現場や患者のインサイトを得るのに良いポジション、視角を持っていることを示しています。

マーケターは、もし社内にそのような医師がいるのであれば、専門領域などに関係なく、アフター5を含めて本音を聴けるチャンスを積極的に求めるべきでしょう。マーケターの側に知りたいという問題意識があれば、必ず何らかのヒントが得られると思います。

もう一点は、自主研究や市販後臨床試験に関するアドバイスです。医師として持っている、科学に貢献したい、真理を明らかにしたいという「本能」は、筆者が知る限り臨床の現場にいる医師も企業内にいる医師もスタンスは同じです。
開発試験が終了して、クスリが市販されても、臨床の現場で出て来る様々な疑問に対し、現在の治験はごく限られた答えしか持ち合わせていません。
承認販売開始後に(適応症の中での)併用などの介入試験を行ったり、副作用、効果予測因子を明らかにするような、いわゆる後期臨床開発に関して知恵を貸してもらうのには、マーケターにとってもサイエンス側の最も良い相談相手でしょう。
もちろん、現在の自主研究には、研究の質の確保や、資金の問題、透明性確保(Publication biasなど)といった解決しなければならない問題を抱えています。
これらに関し、日本製薬医学会は昨年10月に理事長名で「臨床研究に関する提言」を公表しており、同学会のホームページから見ることができます。


いずれにしても、製薬医学と企業内医師が社会的にもっと認知を得て、マーケターとも良い連携を取りながら進んでゆくことは絶対に必要な方向性だと思えます。

そのためには、例えば企業内に於いて、トップマネジメントの眼に製薬医学の目指すものや現在の企業内医師の活躍が視えるようにする必要があると感じています。広報活動に加えて実際のインパクトある活動という実績が要るでしょう。


今年5月に開催された同学会の第一回年次大会には、PMDA近藤理事長の特別講演や市販後全例調査の問題点レビュー、臨床試験デザインなど、注目度の高い演題が組まれていました。
今後は医師以外も会員に加える予定であると聞きましたので、会のプレゼンスもこれから大いに高まってゆくものと期待されます。


安全への目線と患者診療経験を持った医師が、製薬企業内でその活躍の場を(面積と深さにおいて)拡げることで、医療への良いインパクトがきっとあるはずです。
マーケターにとっては、この流れを的確にとらえられるかどうかは、大きな差につながることでしょう。

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