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4月

2010

2010. 4. 15 がん医療の変化

サバイバーの視点に学ぶ

サバイバーでないと見えないものがある。これは3月に開催されたある会でゲストとして登壇した作家の岸本葉子氏の発言を聞いて抱いた感想です。

岸本氏は、ここ10年程の医療現場の変化のポイントをとても落ち着いた語り口で、的確に指摘していたように思います。それは、ご自身が虫垂ガンを告知された頃とは異なって、今ではがん医療の現場でも告知や治療方法に関するインフォームドコンセント(IC)は極めて当たりまえになっていますが、そのような変化が顕著に現れたのが1990年代の終わりごろからではないかと言います。だれもが当然と受け止めている、この「変化」ですが、患者や家族にとっては、それをどう受け止めるかは、時に大変な重荷であることは間違いありません。また医療者の側にもそれらの変化は大きな負担を強いたはずです。

実際、医慮現場は、ある意味、時代の流れとして当然に、このような告知やICを(恐らく)ほぼすべての患者と家族にするようになったにもかかわらず、それを実行する為の特別な訓練や、余分なリソース(人手)をどこかから得たわけではなく、自前の現行の資源から「ねん出」しなくてはなりませんでした。
見る人から言わせれば、そんなこと医療現場がやって当然、と思われるようなことであっても、変化は変化ですから、そこにヒトが関わって変化を可能にするには、実際に摩擦も起きうるでしょうし、調整は欠かせません。つまり、告知される患者さんへの配慮がいっそう必要になるという変化や、多くのことを情報開示する負担感が医療側にあることを充分に考慮しないまま、変化が先んじたという事です。

医療の現場が、(崩壊かどうかは別にしても)しだいにきつくなって来る一つの要因が、そうした患者さんの側の権利意識の向上や、社会からの要請があるのではないか、という趣旨のことを岸本氏は指摘されていました。

医療はステークホルダーの多い、複雑なしかけのサービス業だと思います。ですから、単純に「○○すべき」とか「△△は合わないので、今日から廃止」という決定がしにくい代表格の分野です。
臨床研修制度も、その典型的な現れ方をしたと理解していますが、仮に長期的に見て正しいことも、それを英断する際に、付随して起こる(恐らくは短期的な)デメリットの解消方法をセットにして持ち込まないと、定着する前に、別のステークホルダーによって、仕掛けや決定自体が「爆破」されてしまうことを、よくよく考えるべきだと思います。

これは、何も評論家的な態度で臨む、というのではなく、ネガティブな部分に対して、隠さず、堂々と対処法を議論することからスタートするという意味です。ネガティブな事を言う奴は許さない、正しい方向性が既に出ているときに、なんでそんな細かなことを言うのか?という風潮自体をなくするだけで、相当良い方向に進めます。

実際には、デメリットの解消方法は存在しない場合もあるでしょう。それでも、最悪の場合でもそのようなデメリットがあることを「議論として封印しないで」理解したうえで最後に英断したのであれば、現場のヒトには、変化に対応しようとする想像力も知恵もついているはずで、「こんなはずじゃなかった」とか「やっぱり、恐れていた通りになったじゃないか」という被害者的な視点がずっと減って来るのだろうと思います。

ここで再度、重要なのは「多様な視点」です。岸本氏がこの10年ほどの医療現場に感じとった「変化」は、恐らく、私がここで言葉にしたものよりも深くて、もっと本質的なことを含んでいるように思います。それを感じ取れた一つの要因は、彼女がサバイバーであることと無関係ではないと思います。インサイトは、対象に切り込む角度によって見えたり見えなかったり、または対象との距離や関わりによって得られたり、そうでなかったりする性質のものだろうと考えます。

自分がマルチタスクを出来る訳はなく、また限られた視点と経験で生きていることを踏まえるなら、他者の多様な視点をもう少し取り入れ、そこから学びたいものです。

ふたたび、医療の現場の話にもどせば、皆がAというボタンを押すべきだという議論の時には、きちんと反対意見にも耳を傾けて、その声がどこから出て来て、どこを問題にしているのかを全員が一度は考える。そして、Aでもnon-AでもないB案を生み出せるかどうか。うまいB案が生み出せすやはりA案で行くしかない場合は、そのデメリットを解消する方法があるのか、解消方法はどこまで有効か? さらに、A案のデメリットの受容限度はどこまでと考えるのか?それは計測可能か?Aのメリットと比較して、もしデメリットの方が不幸にも受容限度のレベルを超えたときには、だれがどう「A案の見直し」を動議提出できるのか?その権利はだれがもっているか?

こんなある意味基本的なことを、本気で議論した末にA案にゆくのであれば、A案の実行推進者も緊張感をもってコトに臨むはずですし、デメリットを解消させるさまざまな取り組みも同時に走らせるという行為のなかで、一度は皆で議論したはずのことが、現実にはどう動くのかを、関係者がみな、傍観者でなく主体者となって「学習」する場ができるのではないでしょうか?

詰め切れないうちに見込み発車して、あとは責任の押し付け合い。誰も監視しないし、当事者にも緊張感が無い、という事例は、地方空港の建設を始め、例にこと欠きません。

それをこの国の不幸と嘆くつもりはありませんが、せめて、がん医療は、多様なステークホルダーが異なる視点をきちんと言葉に出して、それをもとに議論を開示しながら、誤らない方向に進みたいものです。
そんなことを考えさせてくれた岸本氏に感謝です。

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