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2010.2.24 失敗事例から学ぶことは成功事例の共有以上に難しい(1)

営業/マーケティングにおける失敗事例発表から

以前のブログ(2010. 1. 11)で 「成功例は何故シェアされにくいのか」を取り上げました。
それは、営業の事例に関して言うと、(医療用医薬品の)営業の性質そのものに起因する要因(業界特異性、営業の持つ世界観)もあるものの、
①「成功」の定義自体が明確でないfragileなものであること
②事例を視る角度・戦略的視点の相違、が大きく貢献していることを述べました。

「自分なりの視点」で発表するという現実の発表のありかた自体の限界、別な言葉で言えば、「発表に関するお作法」の共有不足が問題の根底にあって、それが、本来のあるべき「成功事例の深い共有」を邪魔している可能性を仮説として提案しました。

さて、「成功例」がもしそうであるなら、果たして「失敗事例」のほうはどうなっているのか?失敗例の共有の実体はどんな状態で、その課題は何かについて、今回は少々考えてみようと思います。

そもそも何故こんなことにこだわるのか?
それは以前の職場で「事例検討(全国)発表会」が定期的に行われていたのですが、失敗事例の検討を実りある形で行うのは、成功事例の何倍も難易度が高いことを身をもって感じた経験があるからです。
その発表会は「事例であれば、成功例、失敗例に限らず、共有に値することを出す」、というスタンスだったので、自分たちの失敗事例をあえて(全国発表会でしたが)挙げてきたチームがあったのです。ちなみに(当然予測されるように)実際には成功事例を出すチームがほとんどであり、失敗例を出すチームは極めてまれで勇気のいることだったのを覚えています。

さて、最初から、ある事例が「失敗例」として当事者から発表されることは、発表する側にとっては、自らの過ちないし未熟を認めるというある種の屈辱、苦痛を甘受することになりますから、成功例の発表よりもずっとエネルギーが要るし、簡単ではありません。

私が経験したケースでも(営業のケースでしたが)、まだ経験の少ない営業社員のやってしまった失敗ということで、若手営業社員が発表したものでした。しかし、本質的には、その社員は会社の命令を無視して失敗につながる行為をおこなった訳ではなく、直属上司や関係者の了解を取ったうえでの行動が失敗につながったのですから、発表者が誰であっても、組織としてのエラーには違いありません。

それでは、失敗事例発表が持つ特徴を成功事例の場合と比較する形で一つずつ眺めて行きましょう。
①成功・失敗の定義:成功例の場合と比べると、「失敗の定義」自体に関する異議申し立ては少なくなります。それは、失敗に関しては、本人の定義が尊重されるからです。これは、(今、バンクーバー冬季五輪の真っ最中ですが)銅メダルを取った本人が、「私は金メダルを取れると思ってスキーを滑ったのに、銅メダルに終わったのは、完全なミスで力を発揮しきれなくて悔しい」とコメントした場合に、それを他人が「否定」して「成功」と言うのが難しいのにも似ています。それは、成功が(時にミクロの観点から)発表者によって「成功」と定義されると、種々の角度から第3者から突っ込まれる余地を見せるのと比べて大きな違いです。

成功と失敗の定義

上のグラフで表すと、同じBという結果であった場合でも、本人が目標はA(例えて言うと金メダル)であったと言えば、Bは失敗事例の発表になり、本人が目標はC(例えで言えば、オリンピック入賞)であったと言えばBは「快挙」の成功事例発表となります。
このとき、衆人の眼に明らかなのは結果としてのBだけで、AやCと言った事前の妥当な目標設定が共有されていることはまれなので、当然、議論はBを「成功」と定義した時に起こり易いのですね。その意味では、失敗例は疑いをはさまれる余地が無いので、事例検討のスタートは順調に進みやすいと言えるでしょう。

②要因の特定:成功事例の「要因」を抽出して重みを判断するのは結構難しい作業ですが、失敗事例のなかには要因が「明白」な場合もあります。
「失敗学」を提唱している畑村洋太郎氏によると失敗要因は10に分類できるそうです。具体的には「未知」「無知」「不注意」「手順の不順守」「誤判断」「調査・検討の不足」「制約条件の(経時的)変化」「企画不良」「価値観不良」「組織運営不良」が挙げられています。

もちろんこうした要因のどれかが単独で起こるという極めてシンプルなケースもあれば、複数要因が複合して起こる失敗事例もあるでしょう。いずれにしても、もし要因が、これらのなかの「無知」「不注意」「手順の不順守」「誤判断」のいずれか(およびこれらの複合)に帰着する場合には、対応策はある程度誰の目にも見えるはずです。
「知らなかった人や組織」「注意を怠った人や組織」「手順を守らなかった人や組織」「判断を(明らかに)誤った人または組織」にその責を負わせると同時に、根本原因にもある程度迫ることが可能でしょう。
そうなると事例としては、深く検討するだけの背景が少ない種類のものになって来るかもしれません。本当に、その失敗の要因が「無知」「不注意」「手順の不順守」「誤判断」と言えるかどうかをきちんと検討したうえで、こうした失敗事例に関しては、「失敗事例集」「ヒヤリ・ハット事例」などのかたちでの共有化という手法がそのまま役立つと考えられます。実際にこれらは(製造業を中心とした)企業や医療現場などでも広く行われています。

基本的にはうっかりミスや手抜き、単純な知識不足、常識的判断のミスなど、そのような失敗を繰り返さないための特別な訓練を必要とせず、注意のレベルを上げることで、一定以上の再発防止効果をあげうる、と判断できる種類の「失敗」です。
しかし、このように要因が明白で単純な場合は現実には多くないと思えます。
実際、畑村氏が要因として挙げた10項目のうちでも、その抽象度が高い「制約条件の変化」「企画不良」「価値観不良」「組織運営不良」などは、要因を特定することが相当難しいうえに、その対応や再発防止に至っては、単純な処方箋では済まないことは自明です。
ことが組織のプロセスや風土に関係するようなケースでは、原因の特定が仮にできたとしても、機械の不良部品を取り換えるようなやりかたで対応ができないだけに、時間をかけた対応が必要でしょう。

このように考えてみますと、失敗事例は、本人(発表者)が失敗と自己主張していることに対しての同意は得られやすいものの、その原因が「無知」「不注意」「手順の不順守」「誤判断」のようなシンプルなものに帰着する場合には、問題を再定義し直さないと多くの参加者の共有に耐えられるものにはなりにくいから注意が必要です。
この場合の「問題の再定義」とは、起こった失敗そのものを深く詰めるのではなく、類似のシンプルな要因で生じた失敗事例を広くretrospectiveに集めたうえで、医学の臨床疫学研究などで一般的に用いられるmeta-analysisに類似の方法で、シンプル要因のもつ根本的な背景の分析をすることです。
そうすることで、例えば「担当者の無知が原因」とひとくくりにされていた多くの失敗事例に共通する何らかの組織的な弱点や、見えにくかったインサイトが浮かび上がってくる可能性があります。

さてその一方で、失敗要因が畑村分類でいうところの「未知」「調査・検討の不足」「制約条件の変化」「企画不良」「価値観不良」「組織運営不良」のほうに寄っていると考えられる場合には、その事例自体を深掘りする価値が出てくるかもしれません。
しかし、今まさに日米を揺るがしているトヨタ車のアクセル、ブレーキの問題がそうであるように、シンプル要因でないケースにおける要因解明は「正解」がない世界です。世の評論家たちは、外野からトヨタという会社の持つ(歴史的)問題をまことしやかに取り上げて、それを今回のリコール問題(失敗事例)の要因であるかのように語り、またハイブリッド車という新規技術普及過程に固有の問題だと言ったり、本当に見方は何通りもあります。

このトヨタの事例では、北米で大きな問題を起こしていることからも、将来的には別としても、現時点でトヨタ(や日本のものつくり)の危機であることは明白です。にもかかわらず、原因は、本当に豊田社長が述べているような「急速に大きくなりすぎた」事からくる要因でくくれるのかどうか極めて判断しにくいところです。

このことからわかることは、もし発表者がある特定の「事例」を「失敗事例」として発表するからには、発表者が皆と共有したいと考える何らかの意図が必要になってくるということでしょう。このような意図を持たない発表は、散漫になり到底参加者の満足を得られないでしょう。

それでは、営業マーケティング系の「失敗事例」発表に際して、発表者と参加者はどのようなことに留意すると良いのでしょうか。
事例発表から得られるものを最大にするには、いくつかのポイントを外さないようにする必要があります。
それは要因分析における「セオリーの活用法」であり、そこから発展して「事例発表」というアプローチの仕方そのものに話が及びます。しかしちょっと長くなりすぎましたので、今回はここまでといたします。拙文にここまでお付き合い頂き本当にありがとうございます。
この続きは次のマーケティングインサイツOnoueブログで。

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